2013年12月13日金曜日

韓国の高齢者自殺:生きる気力が尽き果てる孤独と貧困の社会、急増する「静かな自殺」

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●国別年齢別自殺率


JB Press 2013.12.12(木)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39416

韓国の高齢者の自殺:生きる気力が尽きて
(英エコノミスト誌 2013年12月7日号)

孤独と貧困が自殺を招いている。

 義理の息子による訪問は、11月下旬恒例の「孝」の証だった。
 だが、病気を患う義理の両親のために息子が持参した、冬いっぱい持つ自家製キムチは必要とされなかった。
 「子供たちの負担になりたくない」。
 82歳になる父親は閉め切られた自宅に、遺影用の写真2枚と遺書1通とともに、こう書いたメモを残していた。

 マスコミはすぐに、映画「拝啓、愛しています」の老夫婦の死との類似点を指摘した。
 2011年に大ヒットした、老いをテーマとした異色の韓国映画だ。

急増する「静かな自殺」

 韓国ではその年、65歳以上の高齢者が4000人以上も自殺した。
 その割合は1990年の5倍、先進国平均の4倍近くに上った(上表参照)。

 しかし、こうした「静かな自殺」がティーンエイジャーの自殺ほど注目を集めることは滅多にないと、ソウル大学校の精神科教授で、韓国自殺予防協会会長のアン・ヨンミン氏は語る。

 若者の自殺は助けを求める叫び声と見なされ、多額の政府資金が対策に投入されるが、その件数は経済協力開発機構(OECD)の平均と同水準だ。

 高齢者による自殺未遂件数は若年層の10倍に上る。
 自傷行為による健康被害は、保険制度の適用外となることも問題になる。

 高齢者による自殺は、多くの場合、入念に計画されている。
 その分、若者の衝動的な行動よりも簡単に防止できるはずだと、韓国自殺防止センターのキム・ヨンスク氏は話す。

 今年、高齢者の自殺防止のために初めて25億ウォン(230万ドル)の予算が組まれ、その一部が、自殺の兆候を見極められるよう介護人8000人を訓練するのに役立った。
 ソウルでは、地元ボランティアが定期的に高齢者に電話する「テレ・チェック」サービスがある。

 ソウル市内に29カ所ある国営高齢者福祉センターの多くは、宅配弁当サービスを実施している。
 センターに行くことを希望しながらも、体が弱く1人では動けない場合、高齢者を送迎するサービスもある。

 福祉センターの常連、77歳のキム・ドンワンさんは、園芸や書道会(これも高齢者によって運営されている)、そして談笑するためにセンターに通っている。
 「私の故郷には、このような施設はないんですよ」とキムさんは語る。
 田舎を後にし、息子と一緒に暮らすことにした理由の1つだという。

 しかし、このような贅沢が許される高齢者はわずかだ。
 地方在住の高齢者のうち、自分の子供と暮らしている人の割合は、昨年、わずか2割となった。
 1960年代以降、韓国の都市は発展し、若者を引き寄せた。
 政府は社会福祉に対する投資するよりも「家族を犠牲にする道を選んだ」と、ソウル大学校の社会学者、ウン・キス氏は話す。

 政府は賃金を低水準に保ち、教育への投資を促した。
 親たちは、政府の勧めに従った。
 儒教の伝統から、老いたら子供に頼れると考えてのことだ。

■薄れる儒教の伝統

 しかし、OECDによれば、韓国の高齢者の半数が相対的に貧しい暮らしを送っている。
 先進国から成るOECDのランキングでは、加盟国の中で韓国の高齢者は極貧の部類に入るという。
 狭苦しいアパートは、3世代家族を収容することができない。

 また考え方も変わってきている。
 韓国の国家統計局によると、1998年には子供が年老いた親を扶養すべきと考える韓国人は全体の90%を占めたが、現在は3分の1まで減っている。

 だが、1988年に導入された国民年金を受給しているのは、2013年現在、高齢者層の3分の1のみだ。
 先月、基礎老齢年金プラン(高齢者の所得下位7割に対して、月間20万ウォンを支給)が可決され、65歳から受給できるようになった。
 そうできる人は仕事に復帰している。
 駐車場の係員や道路清掃、警備員の仕事に就くことが多い。

 病いに襲われると、映画「拝啓、愛してます」で描かれた老夫婦のように、自らの命を絶つことを選ぶ人もいる。
 ソウルにあるマポ高齢者福祉センターが提供している「満足のいく死に方」に関する講座は、死との向き合い方について話し合うため、「拝啓、愛してます」を観賞することが含まれている。

 参加者は遺言書や墓石の碑文を書いたり、火葬場を訪れたり、遺影写真を撮影したりする。
 しかし、強く望まれるのは、参加者たちが自殺ではない最期を選ぶことだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。





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