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JB Press 2013.12.26(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39543
ゲームは悪者か、韓国で中毒法を巡り大議論勃発韓流関連輸出額の5倍を超えたゲームの知的財産権収入
先日、年末の送年会(韓国では「忘年会」は日本語の名残なので、「送年会」としている)で大学院の恩師に会った。
すでに大学は引退されているが、まだまだ現役で翻訳のお仕事をされる元気なシルバー世代である。
髪は白くなってもバイタリティーは昔のままだったので、その若々しさの秘訣を聞いてみた。
彼女は
「翻訳で煮詰まるとパソコンのゲームで頭を冷やすのよ。
でも、かえってゲームに没頭してしまうときもあるけどね」
と笑う。
■ゲームは頭の体操に最適、と恩師
「どんなゲームですか」と聞くと、
「私は大変なゲームではなくて、パソコンに元から入っているカードゲームをするのよ」
とおっしゃる。
ソリティアのことらしい。
そして
「そんな年甲斐もなくゲームなんて、と言われることもあるけど、ゲームが私にとっては頭の体操だからいいのよ」
とゲーム賛辞が続いた。
韓国で「ゲーム」は子供たちがするもので、子供たちに悪い影響を与えるという認識がある。
しかし、韓国では1997年の金融クライシスを経て、2000年代の中頃からゲーム産業をコンテンツ産業と認識して力を入れてきた。
政府の後押しとIT産業の発展に伴いゲーム産業の売り上げは右肩上がりになった。
文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院が発刊した「2013大韓民国ゲーム白書」によると、韓国のゲーム市場は今年10兆ウォン規模になると見込まれ、2015年には12兆ウォンになる見込みだという。
特に、韓国のゲーム市場はオンラインゲームとモバイルゲームが2強となっている。
2つの分野の昨年の売上高(ゲーム市場シェア)はそれぞれ6兆7839億ウォン(69.6%)と8009億ウォン(8.2%)。
世界のオンラインゲーム市場に占める割合で韓国は28.6%と、中国の43.8%に次いで2位となっている。
モバイルゲーム市場では5.1%と、日本(36.3%)と中国(10.2%)などに次いで5位だった。
また、韓国のゲーム産業の知的財産権の収入は韓流関連産業の輸出額を全部合わせたものの5倍を超える。
このようにゲーム産業は堅調だったが、今年になって少し政府の動きが変わり始めた。
ゲーム規制に向けた取り組みが始まったのである。
すでに女性家族部(部は日本の省に当たる)が行政指導しているシャットダウン制度と文化体育観光部がリードしているゲーム時間選択制度は施行されている。
これらは、18歳未満の青少年は親の同意の下でしかゲームができないというものである。
■ゲーム時間選択制度に続き、中毒法案も発議
親子が家庭の中で話し合って自律的にゲームをする時間やレベルなどを決めるK-IDEA(韓国インターネットデジタルエンターテイメント)の自律的シャットダウン制度と「オンラインゴーストップ・ポーカーゲームのマネー制限」を骨子とする文化体育観光部のウェブボードゲーム規制案は来年の2月から実施される。
ちなみにゴーストップとは日本の花札を使った韓国のゲーム名である。
そして、「中毒予防・管理および治療のための法律案(俗称:ゲーム中毒法)」も提案された。
同法は今年4月セヌリ党のシン・ウィジン議員が発議した。
ゲームを酒類、麻薬、賭博のように一種の中毒誘発物質と見なし、国家が中毒行為を予防、治療する統合システムを構築するというのが骨子である。
同法が国会で承認されればゲームは麻薬、酒類、賭博と同様に保健福祉部の管理下に置かれることになる。
また、ゲーム会社は売り上げの1%を中毒治癒基金として義務的に納付し、規制案を不履行する場合、売上高の5%を課徴金として納付させるというものだ。
発議者は、規制ではなく中毒の治癒だけを目的にしていると言っているが、業界では「ゲーム産業=中毒産業」のイメージが与える打撃が大きいものと見通しており、強く反発している。
他方では、ゲーム産業が発展しているだけにゲーム中毒も深刻化しているためそうした悪影響をなくすためにはやむを得ないという考え方もある。
これには、一部のセヌリ党の議員たちと精神中毒医学界、一部のキリスト教団体、PTA、市民団体が支持している。
「ゲーム中毒法」の根拠になる中毒者の数は、2011年韓国情報化振興院が発表した「2010年インターネット中毒実態調査」資料で、これによるとゲーム中毒者は47万人と推定される。
アルコール中毒者218万人、賭博中毒者59万人よりは少ないが、麻薬中毒者(9万人)よりは多いことになる。
こうした状況の中、ソニーのコンソールゲーム機「プレイステーション4」発売のニュースが出た。ソニーとしてはかなり悪条件の中での発売になると思われた。
■PS4の発売に極寒のソウルで6泊7日の野宿
12月17日、ソウルにあるソニーエンターテイメントコリア(SCEK)前の広場では、PS4の発売イベントが行われた。
そこには、6泊7日かけて野宿しながら発売を待ったホン・ソクミン氏が韓国での購入第1号になった。
1日前から並ぶことはあっても1週間も前から並ぶことはこれまでなかったこととかで話題になり、極寒の中で待っている彼のためにソニー側は広場にテントを張り暖炉を設置するなど、便宜を図った。
SNSなどでも彼をゲーム中毒者と罵るどころか、応援の声が多かった。
また、ネット上では「ゲーム中毒法反対署名」が30万を超えた。
ホン氏はPS4が好きで一番乗りしたかっただけかもしれないが、6泊7日の野宿の影響は多大だったと言える。
彼に感動し、SCEKの社長は発売の時に野宿した彼に自腹でホテルの宿泊券を渡したという。
こうした賛否両論の中、同法案は年内には解決されず、来年の国会の案件に持ち越される。
20日、国会保健福祉委員会法案審査小委員会は、中毒予防、管理および治療のための法律案についてヒアリングなどを通じて意見を集めることが必要だと結論を出し、審議を保留したからだ。
どんなことでもやりすぎはいけない。
だが、エデュテインメントという言葉もあるではないか。
ゲーム=中毒なんてあまりにも単細胞すぎるではないか。
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